不思議なパワリハ®
”パワーリハビリ” ってご存じですか? 日本全国の介護施設で最も採用されているリハビリの方式ですが、このやり方では、小さなお婆ちゃんが、ひょいひょいベンチプレスを上げることが可能です。しかし非力そうなお婆ちゃんが実はマッチョで筋肉モリモリ、という訳ではありません。スポーツジムに置いてあるような筋トレマシンが、なぜか ”指一本” でも軽く上がってしまう仕掛けになっているからです。 ”パワー” の付く名前とは裏腹に、実はまったくパワーを必要としない、見た目は巨大な装置なのに、全くの見かけ倒し、誰でも軽々ベンチプレスが出来てしまうのは、一体何が目的なのでしょうか。
パワーリハビリ®(一般社団法人 日本自立支援介護・パワーリハ学会)のホームページを読むと「筋力トレーニングが目的ではありません」とあり、「老化に対するリハビリテーションです」とも書いてある。「自分に自信がつく」「外出するようになった」といった心理面での効果があると、つまり精神的な活性化が目的だということらしい。ちょっと待ってほしい。
このパワリハの機械が日本全国、津々浦々の介護施設に置いてある。だいたい一台100万円、ですがたった1台では見劣りしてしまうので、何台か購入するのが普通です。
ベンチプレス、レッグプレス、レッグカール、アダクション、アブダクションなど、筋トレの種類にも4~6種類のバリエーションがありますから、購入総額は400万円から600万円が必要となる。筋トレが目的なのではなくて、高齢者の精神的高揚を得るのが目的なのだとしたら、このような高価な設備を買う必要性は一切ない。自重で(自分の体重だけで負荷を掛ける)反復運動をすれば同じ効果が得られるはず。
誰でも初めて見た時は驚く。この大袈裟な機械を設置する目的が、”びっくり効果”、”精神的高揚” だけだなんて、贅沢な話である。誰もにわかには信じられないだろう。「びっくり効果のためだけだなんて」1分も触ってみれば仕組みが分かる。齢を取ったからって高齢者をなめるんじゃない。誰にだって「筋トレの効果はゼロ」と分かる。パーティーグッズに500万円も掛ける奴がいるか。もとはと言えば国民の税金だ。寂しい、自信を失った高齢者を元気にするのに、考えられる良い方法は他にごまんとある。
Outrageous(とんでもない)費用のこと以外にもパワリハ®のデメリットは枚挙にいとまない。特に一番のデメリットは介護職員に掛かる負担が大きいことだろう。
わたしたち、介護の最前線に居る者にとって「業務の非効率・非合理」は敏感に反応するべきトピックである。
①利用者をマシンに座らせる
②マジックテープで身体を固定する
③カルテに従って錘を設定
④動きを促すため「エイトカウント・コール」
⑤カウントが終わったら次のマシンへ誘導
介護職員に掛かる肉体的・精神的負担は尋常ではない。ところで、エイトカウントコール
(12345678、22345678、32345678・・・)という掛け声をご存じだろうか?
学生時代、部活、ストレッチの時間などで耳にした経験のある方もいらっしゃると思います
・
この動画はYoutubeに上がっていたものだが、ひとりの利用者がひとつのマシンをこなすのに8カウント(約50秒)が必要。つまり、20人の利用者がいたとしてマシンが5種類あるとしたら、80分声を枯らしてコールし続けなければならない(上記④のみ) この80分に移動の時間は含まないので(上記①②③⑤の工程)、20人の利用者を午前と午後の2回に分ける必要がある。このデイサービスの存在意義として、活動の主眼となるわけだが、手間ばかり多く、お客さんを満足させる意義に乏しいのは自明ではないか。このデイに通う利用者の場合、通う目的は「健康になる!」ことである。ミスマッチが起こっていないか、良く考える必要があるだろう。
ご高承のとおり介護の現場で恐ろしいのは「転倒させない」こと。高齢者を移動させるのに細心の注意が必要になるわけで、手間というより、介護職員に膨大なエネルギーを必要とする業務となるわけです。ところが、精神的に気持ちを高ぶらせる効果どころか、現場の職員にとっても「意味不明」なんの為にやっているのか、わかっていない。公式発表でも筋力トレーニングの効果は無いわけだから、教える側の介護職員側だって理解できないものを真剣に教えることはないわけです。筆者はそうした理由から「パワリハ®に疑問を呈しているわけです。
目的を理解できないなら、意味不明な神事に等しいわけです。日本のスポーツ界、学校の部活等では「ただやらされるだけの練習」がはびこっていますが、パワリハでもなんでも職員が意味を理解しないままでは、相手の身に付かない。大金を使ってリハビリに行っているつもりなのに意味のあるお金になっていない。日本中の介護施設にアンケートしたわけではないけれど、現場の介護士さんたち「どんな目的」で「職業意識」でこの高価な機械を使っているのか?
改めてホームページをひもとく。一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会理事長である、竹内孝仁教授(国際医療福祉大学大学院・医学博士)が監修した手法、『「老化を効果的に食い止め、動かしづらくなった筋肉を再び動かしやすくする」という、【維持期】に理想的な自立支援介護のためのリハビリ・プログラム」』とある。
介護の現場で、100人中100人が「これ意味があるのか?」と疑問に思っていることと思う。指一本で上がる超軽量負荷、そんな刺激で成長ホルモンは分泌しない。これは筋肉トレーニングを経験したことがある人なら分かる話。運動が苦手な人でも分かる事。
普段まったく動いていない人、ベッドで寝たきりの人に限定するなら、なにがしかの血流促進効果が現れるでしょう。それはベッドの上で体操をすれば良い。腕の自重で済む話(注 自重とは自分の体重という意味)
次に次に挙げるのが
ところが、このパワリハ®は全国の介護施設で広く採用されている。一体なぜでしょう。現場のPTさん介護士さん、パートさんに話を訊くと「とにかくやることになっているから」とロボットと会話をしているような回答。次に利用者さんに話を訊くと「負荷が軽すぎて効果は疑問。しかし若い介護職員さんたちが一生懸命に掛け声をかけてくれるから、やらないと悪い」アンケートを行ったわけではありませんが全国津々浦々でやりとりされている問答だと思います。
つまり介護する側、される側、同じ疑問を持ちながらお互いに本音を隠してルーチンとしてやっているわけです。そしてパワリハ®は日本中の施設にある。つまり、疑問と口にするだけでも ”怖い” 状況に日本中がなっている。北海道から沖縄まで、パワリハ®を採用するデイサービスのフランチャイズネットワークが存在する街に必ずある。
小職は大学卒業後、海外での仕事の経験が20年以上あります。外から日本を見ていた経験が20年あるわけです。そして、ひと昔前、日本で同じお祭り騒ぎがあったことを思い出しました。平成のころ日本企業が国際規格ISO9001の取得に血眼になった時代、苦労してISOを取得した後は維持に苦労し、現場も振り回され疲弊した。あの時の記憶です。
当時の状況に非常に似ています。現場を知らない経営トップがなんとなく決定したのがスタートです。日本人は「周りと同じ」が好きですから、今でいう「同調圧力」なのか全体主義の風土がしみついているのか、単なる村社会というべきか。猫も杓子も「ISO」ブームがありました。何も考えず、考えることを止めて周りに同調する文化のことです。
ISOの場合、上の方で決定したお陰で、いちいち紙に書かなくても良いことを”文書化” させ、現場のやり方に邪魔が入り、仕事のやり方が硬直化したのが失敗でした。本来フットワークのある、軽い小さな会社が官僚主義になり、新しいことをやろうとすると本人も周りもストレスを感じるようになった。悪い雰囲気がたちこめ、欧米が定めた国際標準という言葉に憧れた結果、業務を明文化することが、モノづくりNipponの体力を奪っていきました。小職の目では、ISOにより日本が自らをルールで緊縛している間に中国企業にあっという間に抜き去られたように感じています。
令和の時代になり、あの国際標準がマヤカシと知った今、誰もISOの認証を名刺に刷りたいと云う人はいないでしょう。名刺に「ISO9001認証取得」「14001取得」が金文字で入っているのを見るのは稀です。少なくとも「あれはまやかしだった」と漠然と感じるのが普通です。名刺を見て「ほほう、ISOですか、ずいぶんと体力のおありになるお会社なんですね」と皮肉を云われかねないでしょう。20世紀の終わり、21世紀に入りたての頃、日本の会社は、猫も杓子も「国際標準」という言葉に狂い踊ったのです。現場を知らない経営トップの、「右へならえ」で世間の流行りを盲従した結果でした。
話をパワリハ®に戻します。いちど業界の主流となったパワリハ®は神輿にのって安定した業界標準の地位を確保したのでした。必要なのは別のやり方、自重(自分の体重)を使ってやる体操だと言いました。必要なのは高齢者の健康づくりに効果のある方法、また1対1でなく、先生1人に対して高齢者がグループで行う効率的な方法です。例えば、マットで寝てやる運動、椅子に座ってやるグループ体操、安全で、高い運動負荷のものをやるべきです。
日本全国にFC展開する 「一般社団法人 日本自立支援介護・パワーリハ学会」のサイトこちら
本章の目的は、デイサービスの然るべき合理性を追求することです。ここで「パワーリハビリ®」をとり挙げるのは、パワリハを行っている事業者を批判することでなく、もっとお金をかけないでする効果的な方法があることをお伝えしたいからです。
介護保険はみんなのお金です。その介護報酬で買う施設の備品はリーズナブルな価格でなければならず国民の税金でもって贖うのと同じ感覚で捉えていかなければならない。公共工事で土木業の業者の談合が許されないのと同様に、何も知らない人達に不必要な商品を高く売りつけてはならない。
世事に長けた医療業界の連中が、金儲けでやったことと断言します「パワリハは高齢者の〇〇に効果がある」と確信を持ってやっている介護従事者はいません。また「パワリハが健康づくりに最高の方法」と評価する高齢者にも会ったことがない。みんな仕方なくやっているのが実態なのです。必要ないものを国民の金で買うのは適当でない。誰かが声をあげるべきなのです。改めてパワリハのホームページを見ると「これは筋力トレーニングではない」「重い負荷は百害あって一利なし」「高齢者に危険」とまであります。そしてパワリハは、トレーニングに安全性と効果が確保されている画期的なリハビリ・プログラムです、と自画自賛。軽い負荷で成長ホルモンの分泌が期待できるなら、床に転がって自重(自分の体重の意味)でする運動をすれば良いのです。床に寝る時と起きる時だけ手伝ってあげて、ゴキブリ運動を熱心に行う。もうひとつ元気な人の場合なら、壁にもたれ、椅子に座り、手すりにつかまって自重運動を行えば済む。高価なマシンは買う必要が無い。
https://www.rehapride.co.jp/column/cat1830/post_36.php?fbclid=IwAR36pj8kMVfacn877eMQpRpOCMKZqKywHVGbA3_I2MG_oGl1UVpedxk3QB0
パワリハ® もの凄い重量物を持ち上げているイメージですが実際は笑っちゃうほど軽い(人差し指であげられる)
ここで動画を紹介します「パワーリハビリ」®を知らない一般人の方の疑問に応える動画をです。エイトカウント・コールも聞いていただけます。
やけくそみたいに聞こえますが、すこし気持ちが分かります
繰り返しになりますが、介護保険はみんなのお金、国債で賄うと言いますが、若い世代、いや今から生まれてくる子供たちが背負う借金です。これは亡くなってしまった、ずいぶん上の先輩方がつくった制度で仕方がありません。介護保険で行うサービスは国民の税金でもって贖うのと同じ感覚で捉えていかなければなりません。やって喜ばれるサービスであるできなのに、まったく喜ばれていない、これはパワリハに従事する介護スタッフの気持ちであり、利用者、高齢者の声です。
パワーリハビリ®のホームページには、
・「立つ」「座る」「歩く」という生活動作に特化する
・ 非常に軽い負荷で、同じ角度・同じ動きを「繰り返し」おこなう、とあります
「子曰く、過ちて改めざる、是を過ちと謂う」といいます。買ったマシンは過去のあやまちとして水に流し、明日のやり方を改めることを考えましょう。問題はエイトカウントをコールする職員達の人件費です。マシンよりも人件費のほうが莫大です。これからもコレを続けると思うと、お金の無駄です。しかし、これまでのことを否定せず、いかにしたら利用者さんたちが喜ぶことが出来るか(人員的に質的に対応できる事)悩ましいでしょうがビッグ チャレンジでもありチャンスでもある。波を乗り越えた先には素晴らしい世界が広がっているはずです。本当に利用者さんたちの為になる介護サービスを創造しましょう。ご高承の通り介護を受けるだけのステージに入ってしまうと改善しない。介護予防にしか希望はないのです。介護職員で話し合ってください。管理者は話し合える時間を融通してあげて一緒に話してください(ポスト パワリハ)会議予防に王道は無い。それは社会交流、運動習慣、栄養、日々規則正しく生活すること、家族と周囲と仲良く暮らすこと、健康長寿への道です。幸福に思うも不幸に思われるも我々介護従事者の肩にかかっている。正しい道へみんなで行きましょう。